「華竜の宮」(2010)by上田早夕里を読了。
本年の日本SF大賞受賞作であるということと下馬評含めて選者満場一致で選ばれた作品という話を聞いて読むに至った次第。
故にまったくの前情報無しで読み始めたのだが、そのせいもあってどこが最終目標地点であるか分からないままこの情報の荒波の中で「分からない」という状況を楽しませてもらった。
最初の60頁くらいなんてスーツ姿のおっさんしか出ていないに等しいような状況だったのでこのままだったらどうしようかと思ったよ。
で、そのことに少しだけ関係があるのだが、この物語世界における登場人物は皆何らかのパートナーを伴うと言う形を取っている。
そのパートナーとの有り様が実に多彩でそれだけに注目してみても十分に楽しめそう。
しかも総じて人間よりもその人間に付く非人間的存在のほうがよほど人間的だったりする。
特に、事実上この物語の語り部に近い存在たるマキのほうがその主たる青澄よりよほど人間的に思えることが良くあったりもする。
あと、作劇上絶対に純粋な悪という人間を作らない。
これは青澄の外交官としての信条が語り部マキに作用しているということなのだろうな。
ポリティカルアクションでもあり実はかなり壮大なハードSFでもある本作は非常に楽しめた。
よくもまぁこんな多様な要素をごった煮にしてひとつの形にしたものだと思う。
それがコレを描くための結果論だったとしてもその多岐に渡る要素一つ一つとっても楽しめることと思う。
こういったものに対してひとつの道筋が見えた瞬間の喜び、そして長い道中を共に過ごした登場人物たちとの別れ。
今はその余韻に浸っているところである。