2025/11/30

「警官嫌い」"Cop Hater" (1956) Ed McBain

読むの久しぶりだなあ。
改めてとなるが井上一夫訳という事でやはりテイストがフレミングの007シリーズに近いものに感じる。田中小実昌ほど癖は無いけれどこの頃の訳者は何人か個性の強い人が多い。
さて本編。
シリーズ一作目である本作が一番面白いというか色々詰まっている。
描きたい事いっぱいあってそれを詰め込んだんだろうなという映画監督の処女作みたいなものを、既に「暴力教室」等を書いていていた彼がわざわざマクベイン名義にして出したかったのも頷けるというか。
このジャンルに求めている事はすべて入っている。その中でも好きなのは全体の構成。「クレア…」の感想でも近い事を書いたかもしれないが、このバサっとした終わり方が好きだ。その後も少しはあるのだけれどそこらへんの加減も含めて。
もはや映像的なものも想像が容易くなっているのは、もはや本作に端をなす諸々の映像作品を見たからなのか。

2025/11/27

「キングの身代金」"King’s ransom" (1959)

どうだろう、以前読んだ事はあったかな。
「警官嫌い」とか「死に様を見ろ」とかは読んでたのは覚えているのだけれど。
87分署シリーズでは「警官嫌い」の次くらいには有名な作品。
読んだとしたら『天国と地獄』を観るよりも前。

と言うことで『天国と地獄』との対比をしながら。
冒頭それこそ途中まではホントに本作ままだった。多少の整合性の為の変更や省略はあれど。
そしてトリックや犯人達なども本作ベースにいかに膨らませたり別の意味での社会性や主張を持たせたりの結果があの作品。
そこら辺が分かりやすくて本当に良いお手本になる。
映画用への改変前、ある所から先は、そりゃ87分署だものそうなるという所もこれはこれで好き。
原作のトリックは本当に上手いこと考えたなと思う。冒頭付近に分かりやすく伏線はあったけれどある意味今でも可能?
話の落としどころもまた87分署っぽくて好き。
『天国と地獄』とは力を入れている部分が違うのでそこを拍子抜けするかもしれないが、あれは後半別作品だからな。
こちらは映画では描かれていない犯人サイドが仔細に描かれていて、重心はそちらの方にもある。
まあこんな事考えていたら、見直したくなるよなあ。そのうちに。

2025/11/23

「流れよ我が涙、と警官は言った。」"Flow my tears, the policeman said" (1974) Philip K. Dick

マクベインの「クレアが死んでいる」を読んだ流れで、やはり当時よく読んでいた本作も久々に読み直し。
元々持っていたサンリオSF文庫版ではなくハヤカワ文庫SF版。
訳者が同じなのでたぶん訳も変わっていないとは思うが。
ディック作品の中でも一番好き好きな方の作品のひとつだったがそれを再認識。ほとんど忘れてはいたけれどね。
読み進めて行くうちに、ある意味これは映画『マトリクス』に通じるものがあるなあと思い至ったが、ディックの多くの作品に通じる部分でもあるので、本作に関わらずあの映画の根底はそうだったのかな今更ながら気づかされた。
本作でいうメスカリンのくだりあたり
また、本作終盤で本作のタイトルの由来となったダウランドの「流れよ我が涙」を本部長が聴く(聴こうとする)くだりがあるがそこでふと思いたってSpotifyで楽曲探して聴いてみたりもした。
スティング版も聴いたが、本作にはリュートの方が合うかな。
アリスはある意味あのアリスであったけれど、一方で3月ウサギでもあった。
などと色々枝葉はあれどやはり本作の真骨頂は導入だよなあ。
レトロ未来的なワクワクする世界観が提示された後、徐々に見えてくるディストピアな未来。
その中で足掻くことになる主人公という図式は前述の多くのディック作品に通じるもので好きな所である。
まあ彼らしさで言えば、と改めて考えると全編そうではあるのだけれど。
解説で大森望が書いている水鏡子によるスィックスについての指摘、今回ハヤカワ版を読んで初めて知った。言われてみればそうだし、だとすると本作における彼らに対する扱いも色々納得がいく。だからかれをそこまで長生きにしたのかというところも含めて。
さて、一番最後はネタバレに触れます。







この状況の原因が実は当事者(の知覚)ではなく、唐突に出てきた第3の登場人物によるものだというあたりの理不尽さもまた好きな所の一つ。巻き込まれた理由はちゃんとあるのだけれどね。
前述の水鏡子によるスィックスについての言及を読んで思ったが、Do Android dreams electric sheepの続編として本作と同作をセットで映画化しないかなあ。
ブレードランナーと繋ぐという歪ませ方も面白いかと思うけれど。
と、ここまで書いてかの2046でラスベガスが出てきたりとかは案外そこらへんかもとも思ったけれど、それは別作品由来かも。

2025/11/20

「クレアが死んでいる。」"Lady,Lady, I did it!"(1961) Ed McBain

以前はよく何度も読み返していたなあということをふと思い出した勢いで久々に読んだ。
87分署シリーズで一番好きな作品。
本屋で手に取った当時は、そのタイトルに惹かれたのだけれどね。

今読み返してみても、細かいガジェットを除けば当時も今も変わらない人の営み…と言って良いのかどうかは分からないが。

物語の構造はシンプル。87分署の面々にとっての物語の一片。
推理小説ばかり読むと忘れてしまう事を思い出させる。どちらが良いと言うわけではなく、視点や状況が違えば奏でられる物語も変わってくる。
そういう意味でこういった作品が好きなんだろうなあ。

つい最近になって市川崑が映画化した事を知る。
これをどう映画に落とし込んだかは興味深い所。
取り上げたいキーポイントは割と明確なので話は作りやすいかも。
87分署シリーズそのものが連続ドラマとかに落とし込みやすいので、改めて今に合わせて作り直されても面白いかも。
と、その魅力を再確認させてもらいました。
まあ久々なので色々忘れてたわ。

2025/11/09

藤本タツキ17-26


全8話をAmazon primeにて鑑賞。
端的に言ってしまえば、というか多分意図的に「チェンソーマン」と『ルックバック』を繋ぐものという構成にしたかったのかな。
まあ基本的にはどれも藤本タツキの短編!という感じがとても強い。
死生観と恋愛観。まあどちらも通常使う意味よりもっと大きなものを扱っているが。
あとは、未知のものを知るという事を扱っているのが一番大きいか。知る事で爆発しそこで満足して収束する。
それが藤本タツキにとっての短編なのかな。

2025/11/03

『バーフバリ 伝説誕生〈完全版〉』"Baahubali: The Beginning"(2015)


(2025/11/03 BS12録画)

ここで終わりか。
そして続きは録画し損ねたという。
まあどこかしらで観ることはできるだろうが。

インド映画らしい数の暴力を堪能できるクライマックスとそこに至るまでの広大な景色の数々。
構成に約束事が散りばめられているから怒涛の展開でも澱みなく。
てっきりシブドゥの話になるのかと思ったら後半は丸々バーフバリ。beginningってそういうことだったのね。
次作がconclusionで2016となっていたものがどうやって次に続いていくのかな。
なんというか所々にいにしえの007映画を彷彿とさせるものがあるのも個人的には好き。まあどちらも根っこが同じだけだという事だろうけれど、今の時代にこんな事が出来るのは羨ましい。
それはこういうキャラクター造形が出来ることも含めて。
ホントに作劇や構図の取り方が上手いよなあ。
バドラのあの一連のシーンなんてホントにおーっと思ったもの。
さて、続きを探そう。

2025/11/02

『劇場版 オーバーロード 聖王国編』(2024)

(2025/11/02 Amazon prime)

今までの蓄積があるからこそ澱みなく進んでいく茶番劇。
意図せず進んでいく物語。要所要所のキャスティングで物語の力点を示し、無駄な説明を省く一方で執拗に繰り返されるトラウマも効果的に。
醜い者の象徴として生かされる騎士団長とか本当に悪魔の演出だよな。かたや陶酔していく無垢なる者との対比が、またなんとも言えない。
本作品(シリーズ)の魅力の一つであるゲームプレイヤー視点でその世界を見られるというのも上手く表現できていたと思う。というかこの「ゲームしてるような感覚」が、今回は特にアインズ様及び配下がデミウルゴスによって作られたシナリオに則って動いているという状態なのでその感覚が強い。
シズの棒読みが見事にこの状況にハマっていたあたりも上手いなと思った。
こうやってまとめて劇場版として見られるのもいつも以上に良かった。