2007/08/04

「七瀬ふたたび」他 筒井康隆

「七瀬ふたたび」掲載が掲載されている「筒井康隆全集
第17集」を借りてきて読みましたのでその一連の作品
の感想など。

(以降ネタバレもあります。)
















まず、この本のメインは「七瀬ふたたび」。

ふたたびこの作品と向き合う機会を得られただけでも私
は満足と言えてしまうこの作品は、初見がたしか中学生
(小学生ではなかったと思う)の時でした。
ただし、それが原作が先かNHKの少年SFシリーズの多岐川
裕美子版が先かが既にはっきりしていません。たぶん同
時期だったんだろうなぁ。

で、このTVドラマ版のほうは、(そう機会は多くなかっ
たと思うのだが)何回も見ていたり、たまたま書籍扱い
系ビデオのはしりの頃に出たビデオを入手していたりで、
かなり縁があるんだよなぁ。
故に七瀬は昔の多岐川裕美のイメージで固定されていま
す。
「七瀬、森を走る」のイメージで。
何かとても当時のこのシリーズらしい匂いをさせている
ことが「それでも好きだ」という部分と「また誰かが映
画化してくれないかなぁ」という部分を併せ持っていて、
思い出すたびに心は千々に乱れます。

と、これも語りだすと長くなるので割愛して、そこまで
TVドラマに思い入れがあるにもかかわらず、原作にはそ
れ以上の思い入れがあります。

何よりも、キャラクタにある意味尽きてしまうのかなぁ。
七瀬の揺るぎのない主役然としたところや、文字通り彼
女が存在するが故に存在する恒夫や藤子、ヘンリーやノ
リオという状況設定。
ノリオは理解者として彼女が必要だったし、ヘンリーは
彼女が存在しないと能力を発揮できない。(まぁそれ以
前にヘンリーは七瀬の信奉者と自ら言っているものなぁ。)
さらに矛盾を抱えた能力を持つ藤子は七瀬に(完全にと
はいえないが)そのジレンマに対する安らぎを与えても
らえたし、さらに自己矛盾な能力を持つ恒夫に至っては、
明確に自分の存在意義を彼女に見いだしてしまう。
ある意味その作品群からどちらかというとブラックなと
いうよりはシニカルな話が得意な筒井康隆を以てして、
主人公自身を意図的に神にしてしまうという意味におい
て最も「らしい」作品のような気がします。ここまであ
ざといものをここまでの話にしてしまうのはそう誰でも
出来る事ではないと思う。
(これが、さらに「エディプスの恋人」に至って本当に
神にしてしまうところが、そういう事(ある意味自虐ネ
タ)を書かずにいられない彼らしいところなのですが。)



さて、「七瀬…」もまだまだネタはあるのですが、この
第17集の他の作品の短評など。

「メタモルフォセス群島」
 短編集の表題作として前から気になっていた作品で、
実は初見です…と言いたかったのだが、前に読んだ事あ
るよなぁ。
バカバカしいところから始まって、最後「森を走る」な
所は筒井康隆お得意なところか。

「定年食」
 こちらは本当に初見。ただ大ネタは割と早くに分かっ
たなぁ。
それでもそれをさらにネタに話を拡げていくところもま
た筒井らしさが出ています。

「走る取的」
 ある意味これが筒井の真骨頂。頭の中に映像が駆け巡っ
てました。
ネタ一本で読ませる事のうまさと言ったらもう。
この集では後述の「鍵」とこの作品が双璧をなすと思い
ます。
(むろん「七瀬…」は別格。)
タイトルの元ネタはいうまでもなく「走る標的」。

「こちら一の谷」
 それを言ったらおしまいというネタをどこまでひっぱっ
て落とすかと思ったら平家物語。(ネタバレ)

「母親さがし」
 こういうネタになるだろうなぁと思っていたら、よく
考えてみたら主人公にとっては最初から最後まで目的に
ブレが無い事に気づかされた。
ただ、うまいとは思うものの、途中がちょっと。

「特別室」
 オチが…という部分はあるものの、この混沌も筒井調。

「老境のターザン」
 辺境ではなく老境というところがネタのしどころだっ
たのは作中でネタばらしもしていますが、筒井版ターザ
ンといったところか。
ホント、壊れる話が好きだよなぁ。

「平行世界」
 落語のネタみたいな話なのだが、まぁ落語のネタみた
いな話だなぁ。

「毟りあい」
 思いつきの一発ネタで予想通りの方向に引っ張ってい
かれることへの快感。
筒井作品は単発で読むより、こうやって続けて読んでい
くことのほうがいいなぁなんて思い始めてしまう。

「案内人」
 これもオチがちと苦しいような気が。まぁブラックと
言えばブラックなのだが。

「バブリング創世記」
 一言で言えばジャズセッション。
他国から見ればその国のことはじめなんてみんなこんな
ものなのだろうなぁ。

「蟹甲癬」
 これも初見ではなく何度か読んでいる作品。
タイトルの元ネタは『蟹工船』(っていうまでもないか)
ひとことで言えば飲み屋の馬鹿話。(ただし語り手が筒
井康隆)といったとところか。

「鍵」
 前述のように、本集では「走る取的」と双璧をなす、
これぞ筒井と言える作品。
意図した悪意がここかしこに…。

「問題外科」
 筒井ワールド爆発ですな。
まさにマンガな世界。


とだいたいそんなところでした。

さて、これも読み終わったので次は「裏小倉」を借りて
こようっと。
(この集のメインは「エディプスの恋人」)