2007/11/03

「複眼の映像 −私と黒澤明」

「複眼の映像 −私と黒澤明」を読みました。


実は本来この手の本はあまり読まない。
記憶にある限りでは「スカイウォーキング」と「メイキング・オブ・ブレードランナー」くらいじゃないかな。

しかしどうやら、『椿三十郎』のリメイク話でも再加熱しなかった黒澤熱が、どうやら『隠し砦…』リメイクで火がついてしまったらしい。
それとも、もうじき『椿…』が公開なのと、先日観てしまったドラマ版「天国と地獄」に触発されたのか。

この病気は昔かかったことがあり(ここにはいない)何人かの人に迷惑をかけたことがあるのでできるかぎり避けたかったのだが…。


それはさておき、まず脚本家橋本忍から観た脚本家黒澤明の創作の現場話としては非常に面白く、興味深かった。
ただ、かなり冷静に判断しているところも多い反面、そういう部分から急に飛躍して自分語りになってしまったり、想像を断定で書いているような雰囲気も見受けられ、なんと言うか『幻の湖』を観たときと同じ感覚…この人は脚本家としては素晴らしい人なのだが映画を撮るには不向きなんだなぁという感覚… を抱いてしまった。
読者の視点を分かっているように思えるにもかかわらず、たまに自分を制御できなくて暴走している…ように思えた。
まぁ私の視点も十分歪んでいるので他の人が見ればそんなにひっかからないのかもしれないが。

もっとも本文中でも自作『幻の湖』に対するコメントもあり、以前小國英雄に「(シナリオライターとしての)腕力の強さで(橋本忍に)かなう者は日本には誰もいない。しかし腕っ節が強すぎるから、無理なシチュエーションや不自然なシチュエーションを作る。成功すれば拍手喝采だが失敗する可能性の方が高いし遥かに大きい」と忠告されていたのに、出来た脚本がそうなってしまい自信が持てずあれこれ悩んでいるうちに制作準備が進んでしまい後に引けなくなりスタートした結果、脚本の無理が祟り作品の出来がもう一つになってしまったとあった。

あの状況に比べれば、本書は遥かに成功しているのだが、やはり本質的にはそういう傾向があった人なのだろうなぁ。橋本忍という人は。

ある意味、黒澤明をと橋本忍のふたりについていろいろ考える事が出来るお得な本でした。(まぁ副題が「私と黒澤明」だからタイトルに偽り無しか。(笑))


というわけで、今、手元には図書館から借りてきた「全集黒澤明」の第五巻があります。
掲載作品は『悪い奴ほどよく眠る』『用心棒』『椿三十郎』『天国と地獄』『赤ひげ』そして『暴走機関車』。
この中で、シナリオとして一番読みたいのはやはり『暴走機関車』。

ちなみに個人的に一番好きな『隠し砦の三悪人』は以前シナリオ本を古本屋で購入しており、裏ベストの『醜聞(スキャンダル)』は唯一老後の楽しみとして未見のままにしてある『生きる』と同じ巻にあるため、まだ借りるのを躊躇しています。(読まなきゃいいんだけれどね。)

いや、本当にシナリオとして読みたいのは『醜聞』と『酔いどれ天使』。
どちらも、前者が三船敏郎、後者が志村喬の演技に引っ張られて話が変わってしまったと言われている作品なので、その話が本当なのか、元の話が本当はどうだったかを観てみたい気がします。

まぁまずはその前に第五巻だな。